松野町で“美味しい”と “人のつながり”を提供 こむぎ屋
<北宇和郡松野町>

地域おこし協力隊員として松野町に移住
あさごはんとパンとピッツァのお店「こむぎ屋」は、緑豊かな里山の一角に店舗を構える飲食店。代表を務める岸本有希さん(左)は兵庫県出身で、平成29年(2017)に松野町の地域おこし協力隊員として移住してきました。田舎での暮らしに“居心地の良さ”を感じる中、飲食店の少なさなど“松野町ならでは”の課題に気付いたことで、「地域に寄り添った飲食店をやりたい」と強く思うようになります。協力隊員として3年間の任期を満了後、パンの製造スキルを習得。このとき出会ったナポリピッツァ職人の佐々木海さん(右)を経営パートナーに、令和5年(2023)4月に同店をオープンしました。

国産小麦粉と地元食材への強い思い
「こむぎ屋」では朝食(水~土、8時~13時)、パン(金・土、8時~売切)、ピッツァ(日)の3つの商品を販売しています。朝食はトーストやサンドイッチなど8種類のパンメニューと3種類のセットメニュー(ドリンク付)を自由に組み合わせられるスタイルで、パンは食パンやハード系パンなどを幅広くラインナップ。ピッツァはキッチンカーで販売しており、松野町のほか南予や四万十市などのイベント及び商業施設に出店し、本格的なナポリピッツァを提供。多いときは1日100枚以上売れるそうです。
「こむぎ屋」の店名は、岸本さんが得意とするパンと、佐々木さんが得意とするピッツァの共通項である小麦から。小麦粉にも強いこだわりがあるようで、「安心・安全な商品を提供するために、ポストハーベスト※の観点から外国産の小麦粉ではなく、商品ごとに12種類の国産小麦粉を使い分けています」と教えてくれました。
また野菜や果物などの食材はできる限り地元産を使用。店舗の入口正面にある町内マップには食材ごとの栽培地区と、生産者が似顔絵入りで紹介されており、来店客と生産者をつなげています。生産者から規格外品を直接仕入れることで、フードロス削減にも取り組んでいます。
※ポストハーベスト:収穫後の農作物に対する管理や処理全般を指す言葉。外国産小麦の多くは品質を保持するために、輸送時に農薬処理が施されている。

商工会に通いながら、創業計画書を作成
創業に際し、岸本さんが頼りにしたのは地元の松野町商工会でした。「正直、商工会が何をしているところか知りませんでしたが、ほかに当てもなかったので自分で番号を調べて電話しました」。創業までの流れや必要な手続き、資金調達のための融資制度などを経営指導員に教わり、創業に向けた本格的な準備に取り掛かりますが、すぐに難問に直面します。「融資を受けるためには創業計画書が必要なことを知り、早速作り始めたのですが、何をどのように書けばいいのか全く分かりませんでした。本当は店舗の改装やメニューの開発に時間を割きたかったのですが、その思いを抑えつつ、事務作業をこなしました」と慣れない作業への苦労を吐露。創業までのカウントダウンが始まる中、商工会に何度も足を運び、経営指導員のサポートでようやく納得のいく創業計画書が完成。融資の審査を無事クリアし、念願の創業を果たしました。

持続化補助金を使い、新たな取り組みを開始
岸本さんが商工会を頼りにしたのは、創業時だけではありません。2年目の令和6年(2024)には持続化補助金を活用し、設備投資を行いました。パンの製造に使用する新たな什器を購入して生産性を向上させるとともに、デッキオーブンを購入し、ハード系パンの製造を開始。これによりパンの生産効率が約2割アップし、品揃えも充実しました。近隣にはハード系パンを販売している店舗はなく、同店の大きな強みになっています。また屋外用のタープテントや折りたたみテーブルを購入し、ピッツァやパンが作れる体験教室も始めました。夏休みには子どもたちの自由研究につながるように、さまざまな小麦粉でパンを焼いてみる実験的な体験教室を実施しました。なお、持続化補助金についても、商工会のサポートを受けながら書類作成や手続きを進めたそうで、「事務作業のサポートはもちろん、キッチンカーが出店できるイベントの情報をいち早く教えてくれたり、確定申告に関するアドバイスをしてくれたりと、商工会はとても身近で心強い存在です」とお褒めの言葉をいただきました。

最大の目標は人と人をつなぐ店舗の継続
岸本さんが経営者として大切にしているのは「飲食店という空間で、人と人とをつなげること」。ほかの商品と比較して売上比率や利益率がそれほど高くない朝食の提供をずっと続けているのは、ファミレスやファストフードなどの朝食提供店がない松野町で、“つなげる場所”を提供するためです。「平日の仕事前や休日に散歩がてら来店されるリピーターさんが一定数おり、GWやお盆になると、帰省してきたお子さんやお孫さんと一緒に来てくれます」と語る岸本さんの言葉から、同店が掛け替えのない存在になっていることが分かりました。
最後に今後の目標をお聞きしました。「ここで働いているとお客様や生産農家の方々の温かさをいつも感じます。キッチンカーで訪れた場所では地元の方々やその土地ならではの食材に出会えます。また体験教室では子どもたちから元気をもらえます。こんな素敵な店を継続していくことが最大の目標です」。この謙虚な言葉とは裏腹に、「こむぎ屋」の今後のさらなる成長が楽しみになりました。
DATAこむぎ屋
- 住所
- 北宇和郡松野町吉野655
- 創業
- 令和5年(2023)
- 事業内容
- パン及びピッツァの製造・販売、朝食の提供など
